夕日の眩しい道を1キロほど歩いて、見知らぬ豪邸の前に私は立っていた。もう見つめ合って2分はたつだろうか。仕事で訪れたベルギーの郊外で会食までに時間があったので高級住宅街をぶらりと散歩していたところ、あまりにも美しいキジ猫に見つめられて歩道で硬直していたのだ。
玄関マットの上で香箱をつくった猫は、瞳孔が糸のようになった琥珀色の目で私を観察してきた。だから私も声をかけたい高揚を抑え、サングラス越しに静かに見返すだけだった。
ところで話は逸れるが、私は物を左目で見る癖がある。両方視力はまあまあ良いが、0,5ほど高い左目で見る視界がいつも自分が把握している世界ということだ。証拠に人差し指を立てて指先を両目で見た後で左目を閉じると、人差し指と背景が瞬時にワープしたようにずれる。
だからどうなのヨ、などと言わないで話の続きを世にも美しいキジ猫に免じて読んで欲しい。
私の抑制なんてしょせん知れたもんで、(ああんもう、この猫可愛いったらない!)とついに猫語でこんにちは を発してしまった。
おまけに、「怪しい者ではありません」、と手まで挙げている私。
猫はその瞬間、矢のような速さで私の視界から消えた。
あえて言えば、礼儀正しくサングラスをはずし
HKUE ENG て微笑みかけたかっただけなのに。